『チャールズ・バベッジ』
チャールズ・バベッジ―コンピュータ時代の開拓者 (オックスフォード科学の肖像)
- 作者: ブルースコリアー,オーウェンギンガリッチ,Bruce Collier,Owen Gingerich,須田康子
- 出版社/メーカー: 大月書店
- 発売日: 2009/06/01
- メディア: 単行本
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ところで、この本の原書はオックスフォード大学出版局の「オックスフォード科学の肖像(Oxford Portraits in Science)」という叢書の一冊だ。そしてバベッジはケンブリッジ大の学生だった。この本にはバベッジがケンブリッジの保守的な校風(ライプニッツのそれよりニュートンの表記法のほうが偉いに決まってる、とか、学生は自分が適切だと思った本じゃなくて教官が選んだ本を読め、とか)に抵抗を感じていたと書いてあって、最初これはオックスフォードによるケンブリッジDisなのかと思ったんだけどw、叢書の代表も書き手もハーバード大学出身なんだから、これは下種の勘繰りですね。その後の記述を読むとわかるけど、バベッジは生涯を通してイングランドの科学業界の保守性にずっと不満を持っていて、改革のためにいろいろ動いていたのだ。
さて、最後の章では、バベッジが後の電子式計算機へ与えた影響について、かなり控えめな評価を与えている。たとえば Harvard Mark I を考案したハワード・エイケンは、バベッジの自伝やバベッジの息子がまとめた著作集『バベッジの計算機関』を読んでいたはずだけれども、第二次世界大戦中には図面やなんかの技術的な資料にはアクセスできなかったわけで、具体的な設計については影響が受けようがない。そして、コンピュータ史においてエイケンの役割さえ大きなものではなかったとされる。つまり、大戦中の軍需こそがコンピュータ発展の原動力であり、バベッジやエイケンの研究がなくとも、科学者たちは必要に駆られて計算機を発明していただろう、と。
バベッジの試みはあまりにも時代に先駆けすぎていた。そして、彼はそのことをちゃんと認識していた。自伝の次の文章は、エイケンならずとも、ぐっと来るものがある。
解析機関の基礎になる重要な原理の試験、確認、記録、実証はすべて終わった。仕組みそのものが予想もしなかったほど簡素化された。わたしが後世に残していくこうした手助けなしに、誰かがこのような絶望的なことに挑戦しようとするまでには、おそらくもう五〇年待たなければならないだろう。もし、わたしの前例があることを知らずに、誰かがべつの原理にもとづいて、またはもっとかんたんな機械手段によって、数学解析の実行部全体を具現化する機関の制作を企て、実際に成功したなら、わたしは自分の名声をためらわずにその人にゆずろう。なぜなら、まさにその人だけが、わたしの努力がどういうものであったか、またその成果がどのような価値をもつものであるのかを完全に理解してくれるだろうから。