風が強かった。このところずっとそうだ。カラスだって飛びこなせないような風だ。でもある一羽が勇敢にも巣の外へ飛び出す。風は無情にその一羽から羽をむしりとる。その羽のうち一本がいまふたりの足下に落ちている。街のいたるところで落ちているはずの羽が想像される。相手こそが羽をすべて失ったカラスなのだと,ふたりはたがいにそう思う
春風は鳥からむしりとりけるを少年少女の足下へおく