斬る斬る見斬る

去る四月十日、池袋の新文芸坐で行われたオールナイト上映会「押井守監督特集 Vol. 1 実写版大会」へ行ってきました。上映作品は「アサルトガールズ」「アヴァロン」「斬〜KILL〜」「立喰師列伝」の四本でした。このうち、「斬」が当日に初見だったので、簡単に所感を記しておきたいと思います。
「斬」押井守監督監修のもと、彼と彼の子分たち彼が実力を認める新鋭映画監督たち三人がチャンバラアクション短篇映画を競作するという企画です。同じ趣旨の企画に、押井監督のライフワーク「立喰師」のコンセプトを下敷きとし、若手監督たちが女立喰師を撮る「真・女立喰師列伝」がありました。

オープニング

首都圏外郭放水路で、MELLが主題歌「KILL」を歌いながら、背中の入れ墨を見せたりします。あと犬。あとなんか四つ足のでっかいの。
犬だし入れ墨だし首都圏外郭放水路だし、撮ったのは押井監督かなーと思ってたら案の定エンディングクレジットで押井監督と確認しました。 PV として CD に付けられたっぽい映像が youtube で見られます。えっと、首都圏外郭放水路に行きたいだけちゃうんかと、と思わないでもなかったです!

キリコ

彼女は走っていた。妹のために。自分のために。彼女は走っていた。洗ったはずの足に絡みつく、血に汚れた手と手を斬るために。走って走って、阻むものたちを撃ち伏せて走ったその先で、姉妹は血に沈むこととなる。半年後、ひとり甦った「彼女」は再び走り出す。斬るために。「彼女」の頭を撃ち抜き、「彼女」の腑を串刺しにしたあの男を斬るために。走って走って、その先に待ち受けていたものは……。
監督は「女立喰師列伝」に引き続きメガホンをとった辻本貴則監督、主演女優も「女立喰師」に引き続き「バーボンのミキ」こと水野美紀……ではなくて「美少女クラブ31」第一期メンバーの森田彩華で、よく知らないのですが、彼女には「なんだか発声が良い」みたいな印象を持ちました。敵役、組織のボス・クモタニは「グリーさん」こと山口祥行が演じ、アクション俳優としてのポテンシャルを披露しています。
とりあえず冒頭の、黒スーツ・白シャツの水野美紀姐さん大立ち回りでお腹いっぱいになれます。また、話の流れで「あれ?」と引っかかったところがことごとく伏線だったりするので、脚本もよく書けていると言えるのではないでしょうか。星新一ショートショートっぽいオチも、ラスト間際で主人公の後ろの壁に「ボス・クモタニのイメージビデオ」みたいな映像がプロジェクターで投影されているという、よくわからない舞台装置と併せて、もやもやとした後味を残すことに成功……成功しています!
ところで、頭に包帯をまいた森田彩華=キリコが、イナズマイレブンの円堂守に似てると思いました。キャプテンもあのバンダナの下にあの大袈裟な手術痕があんのかなーとか思うとすごく嫌な気分になれます! オススメ! っていうか、仄聞するに(私はイナイレのゲームにもアニメにも触れてないのですが)イナズマイレブンはあの手術だってありえる世界だと思ってますが間違ってますか?

こども侍

ときは平成、ところはのどかな城下町、小学六年生にして机家当主、龍太郎には忌まわしい過去があった。転校先の学校で巻き込まれたイジメに対して、龍太郎に刀を抜くことを許さないその過去とは一体なんなのか。そして龍太郎は恋を、友情を、妹を守り斬ることが出来るのか……?
エルの乱」まだー? であるところの深作健太監督、小太郎こと十年前の野上良太郎こと溝口琢矢主演、活動弁士山崎バニラが迎えられ、全篇セピア色の画面で児童誌的ゆるゆる侍コメディかと思いきや教室サヴァイヴ系ゼロ年代のリアリズムかと思いきやガチで腕が切り落とされるような殺陣が演じられて、なんかよくわかりまへんでした。
いや、というのはおおむね冗談で、コンセプチュアルという点では一番面白かったかも。ある意味では押井守スカイ・クロラ」に対する批評となっているように観られて、つまり、「これくらいのガキにやらせないとグロテスクさが出ないよねー」という。そして、グロテスクであればいいものでもないとも思いました。

妖刀射程

戦国の世に血を吸い続け妖刀と呼ばれた太刀は、鋼を分けた脇差しとともに封じられた。明治末期、遭難した兵士を宿主に、兵士の銃を新たな力に、太刀は妖刀として再び目覚めることになる。現代、妖刀の片割れもまた、身体と銃とを手に入れる。妖刀によって壊滅せられた警視庁特殊部隊の生き残りの身体を借りた脇差しに対し、妖刀は彼ら二振りの宿命を説く。脇差しは「血を求める渇きは貴様を無に返すことによって癒す」と言い斬るのだったが……。
「キリコ」の辻本監督と同級にして今回商業映画デビュー作となる田原実監督、石垣佑磨主演の、刀と銃とを組み合わせたまったく新しいガンブレードによる新時代チャンバラです。とはいえ、この映画のガンブレードガンブレード呼ばわりは採用するのか)は「銃弾の発射による振動で斬り付ける威力を増す」みたいな気の狂った代物ではなく、刀を振った軌跡に沿って衝撃波的な銃弾が発射されるという真に理の通った……通った……えー、斬り合いをしながら遊底を引く動作はカッコいいと思いました。自衛隊対妖刀二刀流が見たかったです。いや実際、この武器は一対一の立ち会いより集団戦の方が映えそうに思えたんですよねー。

ASSAULT GIRL2

「我は汝の誰なるを知る」……彼女は待っていた。そぼ降る雨の中、虫の音に耳を傾けることさえしていた。その身は白い皮鎧に半ば拘束されているようにも見え、抱えた剣には柄と言わず鞘と言わず凝った意匠が刻まれている。彼女が待ち構えているのはただひとり……黒の拘束具に身を包まれたもうひとりの ASSAULT GIRL ……イエス禁めて言ひ給ふ「黙せ、その人を出でよ」
トリはもちろん押井守監督、出演は藤田陽子菊地凛子です。川井憲次の曲がなり、微妙な色合いの空と雲が映れば、それで押井さんの映画だと感じるんだから得っつーか、様式を確立しちゃったもん勝ちという感じですな。
長篇の「ASSAULT GIRLS」は褒めて称えて止まない私ですが、「女立喰師」や今回の短篇「ASSAULT GIRL」はどちらも評価できていないでいるのでした。「GIRLS」は押井監督の欲望に感染できる映画でしたが、「GIRL」では短すぎてどうにも……いっそテレビアニメシリーズの一話のつもりでコンテを斬ってくれれば面白いと思うんですがー。それにしても、冒頭にも書いた通り、私は「ASSAULT GIRLS」と(「アヴァロン」を挟み)続けてこれを見ていて、つまり、まさかの一晩で二回の「菊地凛子の羽がバサっ」カット拝見ですよ。小説版「ASSAULT GIRLS」のあとがきで押井さんは「(菊地凛子=ルシファの)正体については(…)機会があれば別の形で書いてみたいと思っています」と書いているのですが、その構想は小説ではなく映画にして、思う様「菊地凛子がバサっ」を私たちに見せてくれないかなと思っています。だめか。主に菊地凛子側的な事情で。得がないもんなー、菊地凛子に。