どの口が言うのかと思えば下の口が口火を切った。下の口と一口に言っても彼の場合首より下の開口部は数え方にもよるがおよそ五十は下らないとされており、この度口を利いたのは右手のタバコ窩のやや下に位置し袖口から覗く口である。その唾液は酸いというが、誰が確かめたのかについては彼も口を噤む。