太宰治「葉桜と魔笛」

老婦人の語る、若くして死んだ妹の今際に起こった幻想譚。
23日から26日にかけて、NHK BSハイビジョンで妖しき文豪怪談という番組が放送され、その第2回目に塚本晋也がこの短篇小説を映像化するというので読んでみたのだが、面白かった。
映像になることを前提にして読んで、とりわけ面白いと思ったのが、語り手である姉が春の野道を考え事をしながら歩いていたら、どおん、どおん、と春の土の底の底から、まるで十万億土から響いて来るように、幽(かす)かな、けれども、おそろしく幅のひろい、まるで地獄の底で大きな大きな太鼓でも打ち鳴らしているような、おどろおどろした物音が、絶え間なく響いて来るというところで、しかもそれが日露戦争日本海海戦の砲撃が姉妹の住む街まで響いたものということだった。地の底から響く轟音、なんて塚本晋也の映像にぴったりだし、その音が「遠くの戦場」からもたらされたものだというのも、塚本晋也の諸作品で用いられるシチュエーションと重なると思った。
ところで、問題は24日に放送される塚本版「葉桜と魔笛」を僕が見られないということなのだった。NHKオンデマンドで配信されたりするかなあ……。

追記

テレビ放映版は観られなかったのですが、東京フィルメックスという映画祭で観る機会に恵まれ、その際に感想を書きました
また、塚本版「葉桜と魔笛」を含めた「文豪怪談」のドラマはソフト化されるようです。東京フィルメックスで上映された「葉桜」は音響面を中心にテレビ版から手を加えられたバージョンだったらしく、DVDに収録されるのもそちらのバージョンだと思われます。

妖しき文豪怪談 DVD-BOX

妖しき文豪怪談 DVD-BOX

妖しき文豪怪談 「片腕」 「葉桜と魔笛」 [DVD]

妖しき文豪怪談 「片腕」 「葉桜と魔笛」 [DVD]